< 公募-日本の絵画2018-各審査員講評 >

「公募-日本の絵画2018-」各審査員講評  

意表をつく設定の勝利

佐々木 豊 

 意表をつく設定である。「廃墟の中の裸婦」なんて誰も描いたことがなかった。 鮮烈。それと、陰を暗くして明暗の対比を強めた訴求力の強さで深作秀春氏が大賞を得た。
 準大賞の西田理菜氏はデザインと絵画の境界での仕事に見える。絵画寄りの他の絵を見たい。優秀賞の田中正氏はペンによる繊細な詩情が魅力だ。鉛筆での深みのある表現を目指しているのが吉岡由美子氏だ。闇から浮かび上がる枝や葉に妖気が漂う。
 佳作ではすげのでんじゅ氏の童画が見ものだ。棺桶をのぞく親交のあった人や動物たちを死人の視点から描いている。小生がまもなく目にする光景を先取りされた。 明智慧氏はモノクロの多い受賞作の中で、唯一色彩で楽しませてくれる。
 入選作では横山陽一氏の毒のある顔が不気味。最近、歯の大工事をしたのでこたえた。他に松本亮平氏の動物画、ミル ヨウコ氏の顔。伊東明日香氏の幻想抽象。 河﨑春代、村松泰弘氏の写実技巧が気になった。

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千住 博 

 画家の仕事というのは、時代の空気感に形を与えることだ。しかし同時に、その時代に埋没しない普遍性を持ち合わせていないと、歴史のふるいから落ちていくことになる。かつてバブルの時代、人々にもてはやされたのは、明るく、派手な楽天性だった。しかし時を経て、今も見るに耐えうる作品はどれだけあるだろう。
 一方今という時代の根底に流れるものは、やり場のない不安感や閉塞感だ。現代の画家はそれを前提にして、同時にこの時代を乗り越えていく強さを秘める作品を描かなくてはならない。
 深作秀春氏の内戦の続く地の廃墟のような空間に忽然と出現した女は、未来に向って生き抜く生命力の象徴だと感じ、他を圧倒した。西田理菜さんの作品は、いつの時代も人間が真に求める祈りの模式図だろう。吉岡由美子さんの鉛色に枯れ木や葉が舞う作品が伝えるのは、この時代のやりきれない気分に違いないし、田中正氏は現代人のフラジャイルな心象を絶妙に表現したと思う。

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総評

布施英利(美術批評家)

 これは、アウトサイダー・アートのコンクールなのか? 応募された作品、とくに最終選考に残った作品を見て、抱いた感想である。
 アウトサイダー・アートとは、美術の専門的な教育(=トレーニング)を受けた画家でない者が描いた絵画のことを言う。審査会場には、そんな素朴な、ちまちまとした作業によって生まれた(しかし絵を描くことを愛している)作品が並べられていた。永井画廊の永井龍之介さんは、スイスのアウトサイダー画家ハンス・クルージーの展覧会を企画したりする人でもあるが、そんな空気がこの公募にも反映したのか。
  もちろん、アウトサイダー・アートは、こんにちの美術の一翼を担うものである。かつて画家アンリ・ルソーは、小学生の時に受けた賞だけを心の支えに、軽蔑の評を浴びながらも、生涯、絵を描き続けた。その絵はピカソに大きな影響を与え、20世紀の美術を切り開力になった。
  そんなタイプの美術にスポットライトを当てたのが今回の選考だった。

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審査を終えて

永山裕子 

 今回初めて審査に加わった。サイズも素材も違う作品を、どうやって比べるのかと不思議だった。 結果、選ばれたものは、伝えたいものがちゃんと表現できていて、それに一番あう画材を選んでいる作品だった。
 最初から心を掴まれ、審査を終えるまで皆の関心を集めていた絵もあれば、大きな絵の中で 小さいながらも次第にじわじわと頭角を現し、最後は皆が「なぜ良いのかを力説しあう」絵もあった。前者は西田理菜さん、後者は深作秀春さんである
 鉛の重なりに時間と空間が同時に宿っている吉岡由美子さんの作品ももっと見てみたい。 老人を描いた二十歳の伊保内光季さん、わがまま女子力満載の作品、中堅のミルヨウコさんは、よい意味で見る側の作者イメージ予想を軽やかに裏切り、魅力的だった。すげのでんじゅさん、村松泰弘さんの作品もとても印象に残った。
  審査会場には、初出品と思われる絵も多々あり勢いを感じた。鉛筆やペン、水彩でも素晴らしい表現であれば認められるということを、展覧会を見て頂ければ、納得されると思う。入選、受賞された皆様、おめでとうございます。

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永井龍之介 

 応募者数は減ったが、レベルは上がり、少数精鋭のなかからのセレクトで、 新しいスター誕生を予感させる回となった。一方、入選実績者でも回を重ねると、描写力だけでなく、内容の展開も問われる。 今回、上位と選外で明暗がはっきりと分かれた。
 深作さんは前回から大きく変貌、内容の深化に目を見張った。現代における人間存在の意義を鋭く突きつけた叙事詩的作品は、時空を超えたスケール感があり、鑑賞者を引き込む力がある。
 西田さんは、ひまわりを正面から描いたケレン味のなさが印象的だが、土俗、神話的アプローチから様々な想像をかきたてる種子の描写も魅力的だ。50号サイズも内容とマッチしている。  吉岡さんは、鉛筆の特色をよく生かし、個人的な思いを越え、普遍的な時空間表現に昇華している。今後、枯葉をはじめ様々なモチーフによる洗練された美の展開を期待したい。
  田中さんは、人間と自然が共存する世界をテーマに連続入選以上だが、細部まで行き届いた緻密な描写をベースに全体を大きく捉える構成は円熟味が増し、ランクアップした。

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